原状回復で一番トラブルになりやすいのが、壁紙(クロス)の張替え費用です。
とくに「請求された金額が妥当なのか?」「入居年数によって負担額は下がるのか?」という点は、多くの方が不安を感じるポイントです。
本来、クロスの負担額は**経過年数(耐用年数6年)**を考慮して計算されるため、入居3年・5年・7年では請求額に大きな差が出ます。
また、どの範囲を張り替えるのか(一面・一室・全室)によっても金額が変わるため、相場を理解しておくことはとても重要です。
この記事では、原状回復の壁紙張替えについて、残存価値の計算式と実際の金額例を分かりやすく紹介します。
あわせて、損耗の種類や上振れ要因、交渉時のチェックポイントも解説します。
請求をそのまま受け入れる前に、相場を正しく理解して根拠を持つことが大切です。
| クロスの種類 | ㎡単価(税込) | 6畳(約25㎡) | 8畳(約30㎡) | LDK(約45㎡) |
|---|---|---|---|---|
| 量産クロス | 1,000〜1,500円 | 25,000〜40,000円 | 30,000〜45,000円 | 45,000〜68,000円 |
| 標準クロス(1000番) | 1,500〜2,500円 | 37,500〜62,500円 | 45,000〜75,000円 | 67,500〜112,500円 |
| 機能性クロス | 2,000〜3,000円 | 50,000〜75,000円 | 60,000〜90,000円 | 90,000〜135,000円 |
※金額は概算です。地域・施工条件によって変動します。
もくじ
原状回復のクロス張替え相場の基本|請求単位と前提条件
原状回復で壁紙の張替えが発生する場合、もっとも重要になるのが請求単位と単価の前提条件です。
原則として、壁紙の張替え費用は「㎡単価」または「一面単位」で計算され、施工面積や材料によって相場が決まります。
一般的な量産クロスの相場は**㎡あたり1,000〜1,500円前後、6畳一室で約5万〜8万円が目安です。
ただし、これは工事費と材料費を含んだ金額**であり、部分補修では最低工事費が適用されるケースも少なくありません。
また、原状回復における請求は「故意・過失による損耗」が対象です。
通常損耗(経年劣化)は貸主負担になるため、入居年数による減価償却を踏まえた金額であるかを確認することが重要です。
さらに、天井を含む工事になると費用は1〜2割ほど増える傾向があります。
壁のみと天井を含む場合の費用差については、⇒天井も貼るべき?壁だけ張り替える場合との費用比較も参考にしてください。
一面・一室・全室の違い|原則は“一面”請求、例外の条件
原状回復の請求では、基本的には損耗がある一面だけを張り替えるのが原則です。
国土交通省のガイドライン上も、損耗範囲を超えた全室張替え請求は認められにくくなっています。
ただし、色ムラや柄合わせが難しい場合など、一面のみの補修ができないときは一室分の張替えが請求されるケースがあります。
この場合、見積書には「施工不可の理由」が明記されている必要があります。
全室張替えの請求は、喫煙や広範囲のカビなど特別な事情がある場合に限られます。
請求単位に不明点があるときは、施工範囲の根拠を確認することが交渉の第一歩です。
量産/標準/機能性で変わる単価レンジ
使用する壁紙の種類によっても、請求額は大きく変わります。
もっとも安価な「量産クロス」は㎡あたり1,000〜1,500円程度で、賃貸の原状回復では主流です。
これに対し、柄入りや耐久性の高い「1000番クロス」になると㎡あたり1,500〜2,500円程度。
消臭・防汚などの「機能性クロス」は2,000〜3,000円前後になることもあります。
実際の単価は地域や施工業者によって差がありますが、材料単価+施工費が相場のベースとなります。
詳しい部屋ごとの目安は、⇒【部屋別】クロス張替え費用の目安(6畳・8畳・LDKなど)で紹介しています。
最低工事費の存在と小面積の注意点
部分補修が必要な場合でも、工事費には最低金額が設定されていることが多くあります。
たとえば、㎡単価1,000円でも「一面のみ」「1㎡のみ」のような小面積では、20,000〜25,000円程度の最低工事費がかかるケースも少なくありません。
これは、職人の出張費や養生、作業準備などの固定コストが発生するためです。
「部分補修だから安いはず」と思い込まず、最低工事費が含まれているかを確認しましょう。

損耗タイプ別の相場感|画鋲・ネジ穴・落書き・ヤニ・カビ
原状回復の請求額は、どのような損耗があるかによって大きく変わります。
同じ6畳の部屋でも、画鋲穴1か所と喫煙による全面黄ばみでは、請求金額に数万円以上の差が出ることもあります。
国交省のガイドラインでは、損耗の程度によって「部分補修」で済むのか、「一面」あるいは「一室」張替えになるのかが判断されます。
損耗タイプを把握しておくことで、請求の妥当性を判断しやすくなります。
軽微損耗(画鋲/ネジ穴)|部分補修〜一面張替えの目安
画鋲(がびょう)や小さなネジ穴などの軽微な損耗は、本来であれば借主の負担にならないケースが多いです。
画鋲穴程度であれば通常損耗として扱われ、原則として請求対象外となります。
ただし、ネジ穴が深い場合や範囲が広い場合には、一面の張替えが必要と判断されることもあります。
その場合の費用目安は、20,000〜30,000円前後が一般的です。
一面張替えが妥当かどうかは、施工業者の説明と見積書の内容をよく確認しましょう。
中度損耗(落書き/汚れ)|範囲拡大時の請求単位
落書きや油汚れ、子どもの手垢などが広範囲にある場合、部分補修ではなく一面〜一室の張替えになるケースがあります。
この場合、6畳一室で2.5万〜6万円が相場です。
請求の際は、損耗箇所の写真や面積の根拠を求めることが重要です。
施工範囲が過大であれば交渉の余地があります。
広範囲損耗(喫煙ヤニ/結露カビ)|全室張替えが妥当となる例
喫煙によるヤニ汚れや結露によるカビが壁全面に及ぶと、全室張替えの対象になるケースがあります。
とくにヤニ汚れは消臭対応も必要になるため、通常のクロス張替えより高額になりやすいです。
相場としては、6畳一室で4.5万〜8万円、LDKでは10万円以上になることも珍しくありません。
喫煙による変色や臭いは通常損耗ではなく借主負担になることが多いため、注意が必要です。

入居年数で変わる負担額|耐用年数6年の残存価値を金額化
壁紙には耐用年数6年という基準があり、年数が経過するほど残存価値(請求可能な額)は下がっていきます。
つまり、同じ損耗でも入居3年目と7年目では、負担額が大きく異なります。
この「残存価値」の考え方は、国交省の原状回復ガイドラインにも明記されており、交渉時の重要な根拠になります。
下の表では、量産クロスを想定した入居年数別の負担額の目安をまとめました。
| 入居年数 | 残存価値(負担率) | 6畳(量産クロス) | 8畳(量産クロス) | LDK(量産クロス) |
|---|---|---|---|---|
| 入居1年 | 83%(残存価値 5/6) | 約24,900円 | 約29,800円 | 約44,600円 |
| 入居3年 | 50%(残存価値 3/6) | 約15,000円 | 約18,000円 | 約27,000円 |
| 入居5年 | 17%(残存価値 1/6) | 約5,100円 | 約6,100円 | 約9,200円 |
| 入居7年 | 0%(残存価値なし) | 0円(請求対象外) | 0円(請求対象外) | 0円(請求対象外) |
※耐用年数6年をもとに計算。故意・過失がない場合、7年経過後は原則請求対象外です。
残存価値の考え方|計算式とパラメータ
壁紙の残存価値は、以下の計算式で求められます。
「(耐用年数 − 経過年数) ÷ 耐用年数 × 張替え費用」
たとえば6年の耐用年数で3年経過している場合、
(6 − 3)÷ 6 × 30,000円 = 15,000円 が負担額の目安です。
この考え方を知らずに請求をそのまま受け入れてしまうと、実際より高い金額を負担するリスクがあります。
【例】入居3年/5年/7年の金額シミュレーション
入居3年目 → 約50%負担 → 6畳で約15,000円
入居5年目 → 約17%負担 → 6畳で約5,100円
入居7年目 → 残存価値0% → 原則請求対象外
このように、入居年数が進むほど負担額は下がっていく仕組みです。
交渉時に年数を伝えるだけで、数万円減額できるケースもあります。
入居時に新品でなかった場合の取扱い
入居時点で壁紙が新品ではなかった場合、残存価値はさらに低くなります。
たとえば、入居時にすでに3年経過している壁紙で、さらに3年住んだ場合、請求できる残存価値は0円になります。
請求書を受け取ったときは、壁紙の貼り替え時期を管理会社に確認しましょう。
これを知らずに全額負担してしまう人は少なくありません。

上振れしやすい要因|天井の有無・在宅/空室・マンション特有費
壁紙の張替え費用は、㎡単価や入居年数だけでなく、施工条件によっても金額が大きく変わることがあります。
とくに、天井を含めるかどうか、在宅か空室か、マンション特有の管理費用は、見積もり金額を押し上げやすい代表的な要因です。
請求額を適正に判断するためには、こうした「上振れ要因」を理解しておくことが大切です。
事前に知っておけば、見積書の内容を精査して無駄な費用を減らすことが可能になります。
天井あり/なしの費用差と作業時間
壁のみの張替えと、天井も含めた張替えでは、施工範囲と作業時間が大きく異なります。
天井を含めると、費用は1〜2割程度高くなるのが一般的です。
たとえば6畳の部屋で量産クロスを使用した場合、
壁のみ:約30,000円前後
壁+天井:約40,000円前後
になるケースが多いです。
天井施工は脚立を使った作業が必要になり、手間と時間がかかるため単価が上がります。
詳しい天井施工の違いは、⇒天井も貼るべき?壁だけ張り替える場合との費用比較でも紹介しています。
在宅と空室で1〜2割差が出る理由
在宅での施工は、家具の移動や養生、生活動線の確保など追加作業が必要になります。
そのため、空室と比べて1〜2割ほど高い見積もりになることが多いです。
一方、空室の場合は施工環境が整っているため、作業効率が高く、単価が抑えられる傾向にあります。
たとえば同じ6畳の張替えでも、在宅では35,000円、空室では30,000円程度といった差が出ることもあります。
在宅で施工する場合は、家具移動費や追加養生費が見積もりに含まれているかをチェックしましょう。
この点については、⇒クロス張替え費用は在宅と空室で変わる?その理由と相場差も参考になります。
申請・共用部養生・駐車場など管理関連費
マンションでの施工では、管理関連費用が加算されるケースがあります。
たとえば、
工事申請費
共用部の養生費
駐車場・搬入経路の確保
などが代表的です。
これらは1回あたり5,000〜15,000円程度になることもあります。
相場から見れば決して小さい金額ではないため、見積書に明細として記載されているかを必ず確認しましょう。
このような上振れ要因を把握しておくことで、請求額を見たときに「どこが高いのか」を判断しやすくなります。
金額が高いと感じたときは、業者や管理会社に根拠の提示を求めることが重要です。

妥当性チェックと交渉のコツ|見積書の読み方と根拠づけ
原状回復の壁紙張替え費用を正しく判断するには、見積書の中身をしっかり確認することがとても大切です。
金額の妥当性は、単価や施工範囲、年数による減価償却、追加費用の有無などを一つずつチェックすることで見えてきます。
とくに、残存価値を無視して「全額請求」されているケースは少なくありません。
請求書の金額が高いと感じたときこそ、冷静に根拠を確認しましょう。
見積書の必須チェック項目と赤旗サイン
見積書を受け取ったら、まず以下のポイントを確認してください。
張替え単価(㎡単価または一面単位)
施工面積と実際の損耗範囲の一致
残存価値の考慮があるか
追加費用(申請費・駐車場・最低工事費など)が明記されているか
この中でも、特に注意すべきなのは「面積」と「単価」です。
損耗が一面だけなのに一室分の請求になっていたり、㎡単価が相場より高い場合は、減額交渉の余地があります。
内部リンクで深掘り:費用表・在宅/空室・天井あり/なし
費用が高く感じるときは、まず相場と条件を照らし合わせるのがポイントです。
以下の記事をあわせて読むと、見積書の内容をより立体的に理解できます。
見積書を単体で見るよりも、相場と条件を合わせて比較することで、不当な請求を見抜く力が身につきます。
メール文例:数量根拠と減額交渉の伝え方
交渉の際は、感情的にならずに冷静な根拠を添えることが大切です。
以下のようなメール文例を使えば、相手に強い印象を与えずに交渉を進められます。
📩 メール文例
件名:原状回復費用のお見積りについて
お世話になっております。
壁紙張替え費用のお見積りについて、施工範囲と金額の根拠をご確認させていただきたくご連絡いたしました。
当該箇所の損耗は一面に限定されていると認識しておりますが、見積書では一室全体の張替えとなっております。
相場および残存価値(耐用年数6年)を考慮したうえで、金額の再算定をご検討いただけますと幸いです。
よろしくお願いいたします。
↑↑↑
このように、施工範囲・年数・相場の根拠を具体的に伝えることで、減額交渉がスムーズに進むケースは多くあります。
一方的に「高い」と言うのではなく、冷静な数字を示すことが信頼につながるのです。
まとめ
原状回復の壁紙張替えは、見積書を見ただけでは「高いのか」「妥当なのか」の判断が難しいものです。
しかし、㎡単価の相場や残存価値の計算式を理解しておけば、請求額が適正かどうかを冷静に判断できます。
とくに、壁紙の耐用年数は6年であり、入居3年・5年・7年では負担額が大きく変わる点が重要です。
損耗が一面に限られているのに一室全体の請求が来た場合は、交渉の余地があるケースも少なくありません。
さらに、天井施工・在宅施工・マンション特有の申請費用など、金額を押し上げる上振れ要因を把握しておくことで、不要な負担を回避できます。
不明点があるときは、根拠を求め、数字で説明してもらう姿勢が大切です。
もし請求内容に納得がいかない場合でも、感情的になる必要はありません。
残存価値と相場を根拠に、冷静に交渉することで費用を適正化できる可能性があります。
この記事で紹介した考え方と早見表を活用し、安心して退去手続きを進めましょう。

